キャリアの選択肢
金融機関からコンサルへ転職するメリットと注意点
金融機関での審査・与信・規制対応・法人折衝のうち、コンサルへ持ち出せるのは「制約の中で結論を出した経験」の部分です。行内固有の運用との切り分け方、金融出身が集まりやすい領域とその理由、移る前に確認しておくことを整理しました。
この記事の前提
- 想定読者
- 銀行・証券・保険などの金融機関に在籍し、コンサルティング業界への移動を検討している30〜40代
- 読了後の状態
- 金融での経験のうち何が持ち出せて何が持ち出せないかを判断し、移る場合の準備が決まる状態
金融機関の職務経歴書をコンサルティングファーム向けに書き直そうとすると、「法人融資を担当」「決算書をもとに与信判断の材料を作成」と書いたあたりで手が止まります。書いてあることは事実ですが、読む側には、その人が何を決められる人なのかが伝わりません。
ファーム側が中途採用で見ているのは、業務の名前ではなく、情報が足りない状態で期限までにどこまで結論を出したか、という部分です。この観点で見ると、金融機関の仕事には材料がそろっています。与信判断も規制対応も、条件が確定しないまま締切のある結論を求められる仕事だからです。ただし、行内で使ってきた言葉のままでは、その構造が外から見えません。
ここでは金融特有の経験、つまり審査・与信・規制対応・財務分析・法人折衝に絞って、コンサル側でどう読まれるのかを扱います。未経験からコンサルへ移る際の一般的な条件は30代から未経験でコンサル転職は可能かが扱っているため、ここでは金融出身に固有の部分だけを書きます。
「財務分析ができる」は金融出身の強みにならない
強みとして財務分析を挙げる人は多いのですが、ファームの中途採用ではあまり効きません。財務三表を読める人材は、会計・経営企画・投資の各領域から供給されていて、読めること自体では差がつかないためです。
差がつくのは、分析の技術ではなく、分析の前に問いが立っていた経験のほうです。与信判断には「貸せるのか、いくらまでか、どういう条件を付ければ貸せるのか」という問いが先にあります。問いが先にあるから、決算書のどこを見るかが決まり、見なくてよい部分を捨てられます。この「問いから逆算して見る範囲を絞る」進め方は、コンサルの作業単位とほとんど同じ構造です。
もう1つ効くのが、否定的な結論を文書で出した経験です。融資を断る、条件を付ける、格付けを下げる。いずれも相手が歓迎しない結論を、根拠を示して通す作業になります。ファームの仕事にも、クライアントが望まない結論を出す場面があり、そこで崩れない根拠の作り方を知っているかどうかは、経験年数では代替できません。
逆に、稟議が通った件数や取扱残高の実績は、そのままでは読み替えられません。金融機関の中では成果を表す数字ですが、外に出ると「その数字が、どの判断ができることの証明なのか」を添えない限り意味を持ちません。
持ち出せる経験と、行内でしか通用しない経験を分ける
金融の経験は「持ち出せる/持ち出せない」で二分されるのではなく、1つの経験の中に両方が混ざっています。混ざったまま職務経歴書に書くと、読み手は判断できず、面接で深掘りされたときに答えが行内の事情に戻ってしまいます。
| 金融機関での経験 | コンサル側での読まれ方 | そのままでは通じない部分 |
|---|---|---|
| 与信審査・格付 | 限られた材料で、結論と付帯条件まで出し切る訓練 | 自社の審査基準・格付体系を前提にした説明。基準が違えば結論も変わる |
| 事業性評価・財務分析 | 数字から事業の構造と資金の流れを推定する力 | 「決算書が読める」という言い方。読めること自体は差にならない |
| 規制対応・当局対応 | ルールの解釈を、実際の業務手順まで落とし込んだ経験 | 自社に適用された運用の細部。他社では別の運用になっている |
| 大企業・経営層との折衝 | 意思決定者に短時間で通すための材料の作り方 | 取引関係があるから会えていた部分。看板が外れると再現しない |
| 稟議・行内調整 | 反対意見を織り込んだうえで文書を通す設計力 | 稟議の様式、決裁ルート、根回しの順番そのもの |
| リテール営業・商品販売 | 顧客が何を理由に決めるかを近くで見た経験 | 販売プロセスの運用。仕事の中身が法人向けの支援業務とつながらない |
見分ける基準は1つで済みます。その判断の前提が、業界に共通する構造なのか、自社の内規なのか。共通する構造が前提なら、業種が変わっても持ち出せます。内規が前提なら、その経験は自社の中でだけ通用します。
たとえば「与信方針の変更に合わせて、既存先の見直し順序を組み直した」という経験を考えます。見直しの順序を、影響額と時間の制約から決めたのであれば、これは持ち出せます。方針変更の通達に定められた順序に従っただけであれば、持ち出せません。同じ業務名でも、どちらだったかで評価は変わります。
書き出す作業の手順そのものはキャリアの棚卸しは何から始めるかで扱っています。金融出身の場合は、そこに「この判断の前提は内規か、構造か」という列を1つ足して進めると、仕分けが早く済みます。
金融出身が集まりやすい領域と、その理由
ファームの中でも、金融出身者が入りやすい領域は偏ります。相性がよいからではなく、その領域の作業が金融機関の実務と重なっているからです。
財務アドバイザリー(FASと呼ばれる領域)。M&Aに伴う調査、企業価値の算定、再生局面の計画づくりが中心になります。財務諸表と事業計画を短期間で読み解く作業がそのまま案件の単位になるため、金融機関で数字を扱ってきた経験が最短距離で接続します。ここに移る場合、覚え直すのは分析の対象ではなく、成果物の作法のほうです。
金融機関そのものを顧客とする業種チーム。銀行・保険・証券向けの業務改革やシステム導入を担当する部隊です。業界固有の業務フロー、勘定系の制約、規制の建て付けは、外部から学ぶと時間がかかります。内側にいた人が短期間で立ち上がれることが、そのまま採用の理由になります。
リスク管理・規制対応の領域。制度改正のたびに需要が立ち、条文の解釈だけでなく、それを日々の業務手順と記録の形にまで落とした経験が求められます。当局対応や内部監査への対応を回してきた経験は、この領域では直接の実務経験として扱われます。
事業再生・企業再生。金融機関側で再生案件に関わっていた場合、債権者がどこで折れてどこで折れないかを内側から見ています。関係者が多く利害が対立する案件では、この土地勘が効きます。
ただし、入りやすい領域を選ぶことには副作用があります。金融業界向けの業種チームに入ると、扱う課題は金融のままです。業界を変えたくて移ったのに、業界知識で採用され、結果として同じ業界に留まることになります。業界を離れたいのか、働き方を変えたいのかを先に決めておかないと、この選択で目的とずれます。
働き方で最初に効いてくるのは、看板と成果物の作法
年収や役職の変化は入社前から分かりますが、実際に効いてくるのは、日々の仕事の進め方が変わる部分です。金融機関とファームで構造的に違うのは次の点です。
| 判断軸 | 金融機関で一般的な形 | コンサルティングファーム |
|---|---|---|
| 相手が話を聞く理由 | 所属先との取引関係。看板で席に着ける | 個人が持ち込む情報と示唆。名刺だけでは続かない |
| 成果物の様式 | 稟議・報告書。様式と項目が決まっている | 案件ごとに構成から決める。決まった型は少ない |
| 品質の基準 | 決裁が通ること。抜け漏れがないこと | 相手の意思決定が動くこと。網羅より論点の絞り込み |
| 仕事の来かた | 担当が割り当てられ、継続する | アサインで決まり、数週間から数か月で入れ替わる |
| 知識の供給 | 研修・通達・行内資料として配られる | 案件で必要になった分を自分で仕入れる |
| 評価の周期 | 年次と職位が積み上がる | 案件ごとの評価が短い周期で重なる |
最初に効いてくるのは1行目です。金融機関では、所属先の名前があるから相手が時間を取ってくれます。ファームに移ると、その前提が消えます。同じ内容を話しても反応が違うことに、多くの人は初期に直面します。対処は、会う前に相手の業界の状況を調べ切っておくことに尽きます。看板の代わりになるのは、その場で出せる情報の密度だけです。
2つ目に効くのが成果物の作法です。稟議書は、様式が決まっていて、抜け漏れがないほど評価されます。ファームの資料は逆で、論点を絞るほど評価されます。網羅性を上げる癖が残っていると、作った資料が「で、何が言いたいのか」と返されます。この転換には時間がかかるため、入社前に、自分が書いてきた文書のうちどれが「決裁を通すための文書」だったかを自覚しておくと切り替えが早くなります。
移る前に確認しておくこと
入る領域とチーム。ファーム名よりも、どの領域のどのチームに配属され、最初の半年でどの種類の案件に入るのかを確認します。同じファームでも、業種チームと機能チームでは仕事の中身が違います。オファーの段階で領域が確定していない場合、入社後にどう決まるのかを聞いておきます。
在籍中の情報と顧客の扱い。金融機関では、顧客情報の持ち出しと、退職後の勧誘について、就業規則や誓約書で制限が置かれていることがあります。範囲は会社ごとに異なるため、自分の会社の規程と、入社時に署名した書面を実際に読んで確認してください。転職先が前職の顧客と接点を持つ領域である場合は、この確認を先に済ませておく必要があります。
登録や資格の扱い。所属を前提とする登録が必要な業務に就いている場合、退職でその登録は外れます。自分が持っているものが、個人に帰属する資格なのか、在籍に紐づく登録なのかを整理しておきます。
報酬の構成。基本給と賞与の比率、賞与の決まり方は金融機関とファームで組み立てが違います。提示額の総額だけで比べると、変動部分の大きさを見落とします。
戻る場合の条件。金融機関からファームへ移り、その後また事業会社へ移る流れは起こり得ます。ただし戻るときに評価されるのは離職前の役職ではなく、ファームで担当した案件の内容です。
次にやること
まず、直近3年の案件から「自分が結論を出したもの」を5件書き出します。担当したもの、関わったものではなく、自分が判断した内容が言えるものに限ります。5件出ない場合は、範囲を5年に広げます。それでも出ない場合は、いま在籍している立場で判断の範囲を広げるほうが先です。
次に、その5件を前の表に照らして、内規が前提の部分と、業界共通の構造が前提の部分に分けます。この作業をしてから求人票を読むと、「求める経験」の欄に書かれた言葉が、自分のどの経験を指しているのかが見えるようになります。
そのうえで、領域を1つ仮に決めます。財務アドバイザリー、金融向け業種チーム、リスク・規制対応、事業再生のどれかです。仮でよいので決めておくと、求人の読み方も、面談で聞くことも変わります。決めずに動くと、届いた求人を順に見る形になり、判断の軸が後回しになります。
支援サービスを使う場合、コンサル領域を主に扱う型と、会計・財務領域を主に扱う型では、届く求人が変わります。ファーム側の案件を厚く扱うのがどちらかは事前に確認できるため、コンサル転職サービスの選び方と会計・財務職向け転職サービスの選び方で、それぞれの型の違いを確認してから登録先を決めてください。
よくある詰まりどころ
支店の実務が長く、分析の経験が少ない
支店業務は判断の密度が高い仕事です。取引先の資金繰りの変化に気づいた、条件変更の可否を短時間で判断した、といった経験は、分析の経験として書けます。書けないのは、担当先の一覧と残高だけを書いた場合です。何を見て、何を決めたかに書き換えると、分析経験がないという前提そのものが変わります。
本部で企画をしていたが、社内向けの仕事しかしていない
本部の企画は、社内が顧客の仕事です。関係部署の利害を調整しながら制度を設計した経験は、そのまま「合意形成を伴う設計」として説明できます。行内固有なのは対象の制度であって、進め方の構造ではありません。
年齢が上がってから移ると、下の等級から始めることになると聞いた
役割が変わる以上、金融機関での職位がそのまま移ることはありません。確認すべきは等級の名前ではなく、入社後に任される範囲です。案件の一部を担当するのか、顧客との窓口を持つのか。ここが曖昧なまま入ると、期待とのずれが最初の半年で表面化します。
そもそもコンサルに行くべきか決まっていない
コンサルは、金融の経験を持ち出す先の1つでしかありません。案件ごとに区切られる働き方と、同じ事業を続けて見る働き方のどちらが自分に向くかを先に決めると、選択肢が絞れます。事業会社の財務・経営管理へ進む道は経理・財務経験者のキャリアアップ先で扱っています。