キャリア監査
キャリアの棚卸しは何から始めるか|経験を社外向けに言い換える手順
転職を考え始めたときに最初にやる「キャリアの棚卸し」を、書き出す順番から社内用語の翻訳まで5つの手順で整理します。職務経歴書を書く前の準備として使える内容です。
この記事の前提
- 想定読者
- 転職を考え始めたものの、まず何から手をつければよいか決まっていない30〜40代の会社員
- 読了後の状態
- 自分の経験を社外に伝わる形へ言い換える手順がわかり、その日のうちに着手できる状態になること
転職を考え始めた人が最初にやることとして「キャリアの棚卸し」がよく挙がります。ただ、実際に手を動かそうとすると、何をどこまで書けばいいのかが分かりません。結果として、職務経歴書のフォーマットを開いて、部署名と担当業務を並べたところで止まります。
棚卸しが止まるのは、書き出す対象を「やったこと」だと考えているからです。やったことは業務分掌に書いてあり、書き写しても新しい情報が出てきません。棚卸しで取り出したいのは、やったことではなく、その中で自分が何を判断したかです。
この記事では、判断を取り出すための手順を5つに分けて説明します。所要時間は、直近3年分で2〜3時間程度を見込んでください。
棚卸しが目的化しやすい理由
棚卸しには終わりの定義がありません。書こうと思えばいくらでも書けるため、網羅性を上げる方向に力が向かいます。ところが、網羅した一覧は転職活動では使えません。面接で聞かれるのは「これまで何をしてきたか」ではなく、「うちで何ができるか」だからです。
そのため、棚卸しのゴールは一覧の完成ではなく、次の2つを言えるようになることに置きます。
- 自分が繰り返し任されてきた判断の種類はどれか
- その判断が、いまの会社の事情をどれくらい前提にしているか
2つ目が重要です。社内でしか通用しない判断は、市場では評価されません。逆に、どの会社でも起きる問題に対する判断は、業種が変わっても持ち出せます。この線引きが、転職で何を条件にすべきかを決めます。
手順1|直近3年の「任されたこと」を書き出す
まず、直近3年に絞ります。それ以前は、後から必要になった分だけ足します。3年に絞る理由は、記憶の精度が保てる範囲がそのあたりだからです。5年前の案件について曖昧な記憶で書くと、面接で深掘りされたときに答えられません。
書き方は箇条書きで構いません。1行につき1つ、次の形式で書きます。
いつ/何について/誰に対して/何を決めたか
たとえば「2025年上期/新規取引先の与信枠/営業部長に対して/取引開始の可否と上限額を提示した」のように書きます。ここで「担当した」「対応した」と書きたくなりますが、その2語は禁止にしてください。担当・対応と書いた瞬間に、自分が何を決めたのかが消えます。
このとき、うまく書けない項目が出てきます。それは、自分が判断していない仕事です。判断していない仕事が悪いわけではありませんが、棚卸しの対象からは外して構いません。
手順2|判断した回数で並べ替える
書き出した項目を、頻度で並べ替えます。年に1回しかない特別な案件より、月に何度も発生している判断のほうが、実は自分の強みを表しています。
理由は2つあります。1つは、頻度が高い判断は再現性があるからです。1回きりの大型案件は、状況の巡り合わせに左右されます。もう1つは、頻度が高い判断は、周囲がその人に任せると決めているからです。任せる側の判断が繰り返されているという事実は、社外に対しても説明できます。
並べ替えると、上位に3〜5種類の判断が残ります。この3〜5種類が、いまの自分の中心です。職務経歴書でも面接でも、ここから話を組み立てます。
手順3|社内固有の言葉を外す
上位に残った判断を、社外の人が読んで意味が通る言葉に置き換えます。ここが棚卸しで最も時間がかかり、最も効果がある工程です。
社内用語には3種類あります。制度名、システム名、部署の通称です。いずれも、外に出た瞬間に意味を失います。
| 社内でよく使う書き方 | 外に持ち出せる書き方 |
|---|---|
| 「A制度の運用を担当」 | 「月次で発生する承認業務の基準づくりと例外判断」 |
| 「基幹システムの改修対応」 | 「業務側の要件を整理し、開発側と優先順位を調整」 |
| 「○○会議の事務局」 | 「複数部門の論点を集約し、決定事項を文書化して展開」 |
| 「本部長案件のサポート」 | 「決裁前に必要な数値と前提条件を揃え、判断材料を作成」 |
置き換えのコツは、固有名詞をいったん全部消してから、残った動詞で説明し直すことです。固有名詞が消えても文が成立するなら、その経験は持ち出せます。成立しないなら、その経験は社内固有です。
社内固有だと分かった経験を捨てる必要はありません。ただし、転職市場での評価には数えないでください。ここを混ぜると、自分の市場価値を実際より高く見積もることになります。
手順4|数字を付けられるものにだけ数字を付ける
数字があると説明の解像度は上がります。ただし、無理に付けると逆効果です。根拠のない数字は面接で崩れます。
付けられる数字は、だいたい次のどれかです。
- 扱った対象の規模(件数、金額、人数、拠点数など)
- 頻度(月次、週次、年間の回数)
- 期間(何か月で立ち上げたか、何年運用したか)
- 関与した範囲(何部門、何社と調整したか)
一方で、「業務効率を30%改善」のような効果の数字は、測定方法を説明できる場合にだけ使います。説明できない場合は、数字を書かずに「作業の重複を減らすため、承認経路を2段階に整理した」のように、やった内容だけを書くほうが安全です。
数字が出せないことを気にする必要はありません。管理部門や企画部門の仕事は、単独で成果を測れないものが多く、それは仕事の性質であって本人の問題ではありません。
手順5|説明できない空白を見つける
ここまで作った一覧を、上から読み返します。読み返す観点は1つだけです。「この経験について、なぜそう判断したのかを3分話せるか」。
話せない項目が出てきます。それが空白です。空白には2種類あります。
1つは、実際には自分が決めていなかった項目です。これは削ります。もう1つは、決めてはいたが理由を言語化していない項目です。こちらは残し、当時の状況を思い出して理由を書き足します。この作業が、面接の受け答えの原型になります。
空白が多いと不安になりますが、空白の位置が分かったこと自体が棚卸しの成果です。空白があるまま活動を始めるより、どこが弱いかを把握して臨むほうが、条件交渉でも有利になります。
棚卸しの結果をどう使うか
でき上がった一覧は、そのまま職務経歴書にはなりません。順番が違うからです。棚卸しは頻度順、職務経歴書は応募先が知りたい順に並べます。
使い道は次のように分かれます。
- 応募先を絞るとき:上位3〜5種類の判断が求められる職種を探す。求人票の「業務内容」ではなく「期待する役割」の欄と照合する
- 職務経歴書を書くとき:応募先ごとに、関係する判断を上に並べ替える
- 面接に臨むとき:手順5で言語化した理由をそのまま使う
- 転職しないと決めたとき:空白のうち、いまの職場で埋められるものを次の期の目標にする
最後の使い道が重要です。棚卸しは転職のための作業に見えますが、結果として「いまは動かない」という結論になることもあります。それは失敗ではありません。判断材料が揃った上で残ると決めたなら、目的は達成されています。
年収の観点から動くべきかどうかを整理したい場合は、30代で年収を上げる転職と下げる転職で、上がる場合と下がる場合に何が起きているかを扱っています。転職以外の選択肢も含めて比較したい場合は、転職・副業・学び直しのどれから着手するかを参照してください。
よくある詰まりどころ
同じ仕事を10年やってきて、書くことが少ない
期間が長い場合は、年ごとに任される範囲がどう変わったかを見ます。同じ業務名でも、判断できる金額の上限や、相談されるようになった相手は変わっているはずです。変化がない場合は、それも事実として記録します。
マネジメント経験を書けと言われるが、部下がいない
人事上の部下の有無と、他人を動かした経験の有無は別です。他部門に依頼して動いてもらった、外注先に仕様を出して品質を管理した、という経験は書けます。ただし「マネジメント経験あり」とは書かず、実際にやったことを書きます。
専門性がないと感じる
特定の技術や資格がないことを専門性の欠如と考えがちですが、頻度の高い判断が3種類あれば、それは領域として説明できます。専門性という言葉を使わず、「どういう場面で相談される人か」で表現してみてください。
書き出すと自信がなくなる
棚卸しは、できることの一覧ではなく、現在地の記録です。少なく見えるのは、これまで社内の文脈で説明してきたためで、経験が少ないこととは違います。手順3の言い換えを終えるまでは、量の判断を保留してください。