キャリアの選択肢

経理・財務経験者のキャリアアップ先にはどんな選択肢があるか

経理・財務の次の一手は、経営管理へ上がる/IPO・M&Aへ領域を広げる/税務や連結を深めるの3方向に分かれます。それぞれで追加して求められる経験と、会社規模によって同じ職名の中身が変わる点を整理しました。

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この記事の前提

想定読者
事業会社の経理・財務で数年以上の経験があり、次の一手を検討している30〜40代
読了後の状態
経理財務の経験から進める方向を把握し、自分の経験がどこまで届くかを判断できる状態
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月次を締め、四半期の開示資料を作り、監査法人からの質問に回答する。この一巡を何年か繰り返したあとで求人票を開くと、「経営管理」「グループ経理」「IPO準備」「CFO候補」といった職名が並んでいます。業務内容の欄を読んでも、自分のやってきたことがそのどこに当たるのか、何が足りないのかが判断できません。

読みにくさの原因は、職名と実務の対応が会社ごとにずれていることです。同じ「経理マネージャー」でも、伝票の承認まで自分でやる会社と、子会社から上がる連結パッケージの取りまとめだけを見る会社があります。経理・財務のキャリアは一本道に見えますが、決算を締められるようになった時点で道は分かれます。

経理・財務から先は3方向に分かれる

決算を締められる状態は、経理としての出発点であって到達点ではありません。ここから先の進み方は、大きく3つです。

  • 上流へ上がる:予算・見通し・投資判断など、決算より前の意思決定に関わる側へ移る
  • 領域を広げる:IPO準備、M&A、海外子会社の管理など、平常運転ではない局面を扱う
  • 専門を深める:税務、連結・国際会計、資金といった特定領域で、判断の難しい論点を処理できるようになる

3つは排他ではなく、順番に重ねていく人もいます。ただし同時に3方向へ手を出すと、どれも「少し関わった」で止まり、職務経歴書に書ける判断が残りません。

上流へ上がる(経営管理) 領域を広げる(IPO・M&A・海外) 専門を深める(税務・連結・資金)
何が価値になるか 数字を使って他人に判断させられること 非定常の局面を実際に回した経験 前例のない論点に結論を出せること
追加して要るもの 事業側の言葉と、仮定を置く胆力 局面に立ち会う機会そのもの 制度改正と実務指針を継続的に追う習慣
求人の出方 通年で出るが応募者も多い 会社にその局面があるときだけ出る 母数が少なく、出たときに一気に決まる
経験の持ち出しやすさ 会社が変わっても効きやすい 一度経験すると強く効く 制度が変わると更新が必要
詰まりやすいところ 説明相手が会計を知らない人になる 未経験だと最初の一回に入れない 社内に相談できる相手がいなくなる

どの方向が近いかは、いまの職場で回ってくる相談の種類で見当がつきます。事業部門から「この数字はどう読むのか」と聞かれることが多いなら上流寄り、監査法人や税理士から論点を投げられる側にいるなら専門寄りです。どちらもなく締めの作業だけが回ってくる場合は、後述の順番から入ることになります。

経営管理へ上がるときに足りなくなるもの

決算業務は「正しいこと」で評価され、経営管理は「使えること」で評価されます。この軸の違いが、そのまま必要な力の差になります。

最初に効くのは、扱う数字の性質です。決算は確定した事実を集めますが、予算や見通しは仮定の束で、前提を置いた人がその説明責任を負います。事実を正確に写す姿勢のままだと、仮定を置くこと自体に抵抗が出ます。

次に、説明する相手が会計を知らない人になります。事業部長や経営会議に勘定科目の話をしても伝わらず、「販管費が増えた」ではなく「採用を前倒しした分が期の後半に効く」と変換することになります。予実差異を作れることと、差異の理由を事業側から引き出せることは別の能力です。

求人でよく見る「CFO候補」はこの延長にありますが、資金調達、銀行や投資家への説明、取締役会での議題設定など、経理の延長線上にない範囲を含みます。実態が経理責任者の募集であることもあるため、面談では直近の資金調達予定、開示義務の範囲、管理部門の人数を聞くと中身が分かれます。

予実管理や原価計算そのものを職務経歴にどう接続するかは、管理会計の経験を生かせる仕事で扱っています。

領域を広げる場合は、局面に立ち会えるかで決まる

IPO準備、M&A、海外子会社管理には共通点があります。会社にその局面があるときにしか経験できない、という点です。だからこそ経験者が少なく、一度やると持ち出せます。

IPO準備は段階で中身が違います。上場を意識し始めた時期は、規程の整備、内部統制の仕組みづくり、月次決算の早期化といった土台の作業が中心です。申請が近づくと、監査対応、開示書類の作成、証券会社からの指摘への対応に移ります。「IPO準備の経験あり」と書いても、どの段階を担当したかで評価は変わります。

M&Aでは、買収前のデューデリジェンスより買収後の作業のほうが期間が長くなります。取得原価の配分、のれんの扱い、被買収会社との会計方針の統一、決算日程の統合。買収前だけを経験して「M&A経験」と考えていると、面接で統合後を聞かれて答えられなくなります。

海外子会社の管理では、決算パッケージを期日どおり回収すること自体が仕事になります。現地基準との差異調整、為替の影響、移転価格の資料整備が続きます。

未経験からこの方向に入る経路は限られます。求人の多くが経験者を求めるため、社内で局面が来たときに手を挙げるのが最短です。自社に予定がなければ、その局面を控えた会社へ通常業務の枠で入り、始まった段階で担当を取りにいく方法があります。事業会社の外側から関わる働き方に関心があるなら、金融機関からコンサルへ転職するときに持ち出せる経験が参考になります。

専門を深める場合は、求人の母数と引き換えになる

税務、連結・国際会計、資金。この方向は、深めるほど「その専門を必要とする会社」が減ります。条件は上がりやすい一方、募集が出るまで待つことになります。

税務では、申告書を作れることと、税務調査で自社の処理を説明できることが別の能力として見られます。グループ通算や移転価格のように、単体の申告では触れない領域を持っているかどうかで任される範囲が変わります。

連結・国際会計は、子会社が多い会社ほど価値が上がり、単体しか経験のない人との差が明確に出ます。会計基準の適用判断まで自分で組み立てたことがあるかどうかが次の分かれ目です。

資金は、経理より人数が少なく、社内で経験を取りにいきにくい領域です。資金繰りの管理、借入の設計、金融機関との関係維持は担当が固定されていることが多く、空きが出ないと回ってきません。異動希望を早めに出しておくのが現実的です。

資格の効き方もこの方向で変わります。税理士や公認会計士のような資格は、実務経験のない領域へ移るときの証明として効きます。逆に、同じ領域の実務がある人が近い会社へ移る場合は、資格より担当した論点の中身が見られます。取得を考えるなら、証明が必要な移動をするのかを先に決めてください。

同じ職名でも会社規模で中身が変わる

同じ職名でも、会社規模で仕事の中身は入れ替わります。

従業員数十人規模 数百人規模・非上場 上場・連結子会社あり
経理担当の守備範囲 記帳から支払、給与、時に総務まで 領域ごとに担当が分かれ始める 単体・連結・開示・税務で担当が固定
「経理課長」の実態 実務の主担当と決裁者を兼ねる 数人のチームの進行管理 特定領域の責任者。全体は見ていないこともある
決算の締まり方 月次を締めていないこともある 月次は締めるが早期化の圧力は弱い 開示日程から逆算した日程が固定されている
身につきやすいもの 業務の全体像と制度の外枠 業務設計と人の配分 論点の深さと外部への説明力
転職時に不足しがちなもの 連結・開示・監査対応の経験 開示水準の厳密さ 全体を一人で回した経験

規模を下げる移動では守備範囲が一気に広がりますが、開示水準の厳密さは身につきません。規模を上げる移動では、担当領域が狭くなる代わりに論点の深さが求められます。いま自分に欠けているのが「幅」なのか「深さ」なのかで決まります。

求人票は職名を無視し、連結決算の有無、開示業務の有無、経理部門の人数、会計システムの種類の4点を探してください。書かれていなければ、面談の最初に聞く項目になります。

月次決算しか経験がないときに進む順番

月次は回せるが、年次も連結も開示も触っていない。この状態から動こうとすると、応募先が極端に狭くなります。埋める順番には理由があり、飛ばすと次で詰まります。

  1. 年次決算と税務申告の周辺に入る。年次は月次の積み上げでは終わりません。引当、税効果、減損といった、月次では出てこない判断がまとまって出てきます
  2. 外部に説明する側へ回る。監査法人や税理士の質問に一次回答を書く役割です。自分の処理に根拠を持たせる訓練になり、論点の言語化が速くなります
  3. 連結または開示のどちらかを持つ。単体の数字が外にどう出ていくかを知る工程で、上場企業への応募ではここが分岐点になります
  4. 予算・見通しに関わる。確定していない数字を扱うため、確定した数字の扱いを先に固めておくほうが立ち上がりが速くなります

社内で取りにいく方法は限られています。繁忙期の分担が決まる前に手を挙げる、退職や異動で空いた業務の引き継ぎに名乗り出る、監査法人からの質問リストの回答を下書きする。いずれも担当を正式に変えなくても始められます。

機会がまったくない場合は、規模の小さい会社へ移って守備範囲を広げる手もあります。何を任されてきたかを言語化する作業は、キャリアの棚卸しの手順にまとめています。

簿記以外で評価される要素

簿記は前提として見られることが多く、級だけでは差がつきません。求人票に書かれていなくても、面接で確認されるのは次のようなところです。

  • 締めの日程を設計した経験。何日目に何が揃うかを決め、詰まる工程を先に潰した経験は会社が変わっても効きます。日程どおり動いた話より、動かなかったときに何を変えたかを話せるほうが強くなります
  • 説明した相手の幅。監査法人、税理士、税務署、銀行、事業部門、経営会議。相手ごとに求められる粒度が違うため、どこまで相手にしてきたかで任せられる範囲が変わります
  • システムとデータの扱い。会計システムの入替に業務側として関わった、マスタの設計を決めた、集計を手作業から外した、といった経験
  • 制度変更に自分で対応した経験。電子帳簿保存法やインボイス制度のように、社内の運用そのものを作り直す必要があった変更で、手順を設計する側にいたかどうか
  • 属人化を解いた経験。手順を文書化して、他の人が回せる状態にしたかどうか
  • 英語。会話より先に、海外子会社からの報告や契約書を読む場面で必要になります

これらは職務経歴書に「担当した」と書くと消えます。日程を決めた、方針を決めた、手順を作った、と書ける形にしてください。決めたと書けないものは、書かないほうが面接で崩れません。

次にやることと、よくある詰まりどころ

着手できることは3つあります。

  1. 直近3年で自分が判断した論点を書き出す。処理した仕訳ではなく、判断が要ったものだけを残します
  2. 気になる求人票を、職名を隠した状態で業務内容だけ読み直し、自分が触っていない工程を数える。3つ以上あるなら、応募より先に社内で埋められる分がないかを見ます
  3. IPO準備やM&Aのように局面依存の求人は、出る時期が偏ります。求人の出方から逆算した動き方は、会計・財務職向け転職サービスの選び方で扱っています

経理から出たいのか、経理の中で上がりたいのかが決まらない

数字を作る工程そのものに手応えを感じるのか、その数字で人が動くところに手応えを感じるのかで分かれます。前者なら専門を深める方向、後者なら上流へ上がる方向が近くなります。どちらとも言えない場合は、直近で時間をかけて悩んだ作業がどちらだったかを見てください。

中小企業で全部やってきたが、上場企業では通用しない気がする

不足しているのは能力ではなく、連結・開示・監査対応という工程の経験です。工程は入ってから覚えられますが、選考では経験の有無で判断されます。単体決算の担当から入り、社内で連結へ移る二段構えのほうが現実的です。

年齢が上がってから動くのは不利ではないか

経理・財務は経験年数が評価されやすい領域です。不利になるのは年齢そのものではなく、同じ工程を長く繰り返して、任される判断の幅が広がっていない場合です。何年やったかではなく、何年目に何が増えたかを説明できるかどうかで見られます。